万次郎 会計・決算シグナル|ニデック個別記事 続編|2026年10月20日更新
ニデックの2025年3月期に続き、2026年3月期の年度監査も「意見不表明」となった。監査法人はPwC Japan。2期連続という事実は重いが、それだけで上場廃止が自動的に決まるわけではない。[1][2][5]
問われるのは、不表明を何回受けたかに加え、その原因を解消し、信頼できる財務報告と内部管理体制を取り戻せるかだ。
前稿では、減損をめぐる報道と正式開示、監査証拠の問題を扱った。今回は意見不表明の意味と、2期連続になった後の上場の行方を整理する。
そもそも意見不表明とは何か
意見不表明とは、監査人が財務諸表について意見を出すための十分かつ適切な監査証拠を得られず、未発見の誤りがあるとすれば、その影響が重要かつ広範になり得ると判断した場合などに、監査意見を表明しないことだ。[3]
| 監査意見 | 意味 |
|---|---|
| 無限定適正意見 | 財務諸表は、すべての重要な点で適正に表示されている。 |
| 限定付適正意見 | 特定の問題の影響を除けば適正。問題は重要だが、影響は広範ではない。 |
| 不適正意見 | 確認された誤りの影響が重要かつ広範で、財務諸表は適正に表示されていない。 |
| 意見不表明 | 意見を形成する根拠が足りず、適正かどうかについて意見を表明できない。 |
出典:[3][4]。財務諸表の適正表示に関する監査意見を簡略化した比較。
意見不表明は「問題なし」でも「すべての数字が誤り」でもない。監査人の保証を得られていない状態であり、「不適正だと断定されていないから安心」と読むこともできない。監査報告書自体は発行され、その中に不表明の理由が記される。
また、年度の財務諸表監査の「意見不表明」、四半期などのレビューの「結論不表明」、内部統制監査の「意見不表明」は対象が異なる。本稿の「2期連続」は、年度の財務諸表監査を指す。
2期連続で出ると上場廃止になるのか
東証の制度に「意見不表明が2期連続なら一律に上場廃止」という回数だけのルールはない。意見不表明等について、直ちに上場廃止としなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかだと東証が認めれば、1回でも上場廃止となり得る。一方、内部管理体制等の改善の必要性が高いと認められれば、特別注意銘柄に指定される。[5][6]
ニデックは2025年10月28日に特別注意銘柄へ指定された。したがって、今回の焦点は2回目の不表明だけでなく、指定から1年経過後の改善審査にある。[11][13]
| 改善審査での判断 | 制度上の扱い |
|---|---|
| 内部管理体制が適切に整備・運用されている | 原則として指定解除。ただし、収益性などの条件によっては経過観察のため指定継続。 |
| 整備は適切だが、運用はまだ不十分 | 適切に運用される見込みがある場合に限り、指定継続と再審査。 |
| 整備が不十分、又は適切に運用される見込みがない | 上場廃止。 |
出典:[6]。指定継続後の再審査でも整備・運用が認められなければ、上場廃止となる。
「もう1回チャンスが必ずある」とも、「指定から1年となる日に即座に上場廃止が決まる」とも言えない。監査法人は監査意見を判断し、東証は上場を判断する。両者は関係するが、同じ判断ではない。
過去に連続する年度が意見不表明となった例はあるか
連続する複数の年度の財務諸表に、意見不表明が付された国内事例はある。ただし、各年の年度監査で不表明が続くケースと、過年度決算の一括訂正で複数年度が不表明になるケースは分けて読む必要がある。
以下の2社は後者を含む事例だ。ニデックと同じ経緯で年度監査が毎年2回続いた先例とは扱わない。今回と同じ条件の国内上場企業の先例は、本稿で確認した資料の範囲では確認できていない。
ハイアス・アンド・カンパニー 複数期の不表明から上場維持へ
同社は2020年、2015~2019年4月期の訂正後の財務諸表と、2020年4月期の財務諸表について、意見不表明の監査報告書を受領した。複数の連続年度が対象となったケースである。[7]
東証はその後、訂正規模、以後のレビュー結果、不正に関与又は認識した経営陣の退任見込みなどを総合的に検討し、上場廃止が相当とまでは認めなかった。上場市場を変更し、特設注意市場銘柄として改善を求めた。[8]
改善審査で一度は指定が継続されたが、内部管理体制の改善が認められ、2022年7月28日に指定が解除された。複数期の不表明があっても、改善を通じて上場を維持できた事例だ。[9]
トーシンホールディングス 不表明から限定付適正意見へ
同社は2025年10月31日、2020~2024年4月期の訂正有価証券報告書と2025年4月期の有価証券報告書について、意見不表明となった。こちらも過年度訂正を含む複数期の事例である。[10]
2026年4月期の年度監査は限定付適正意見となったが、2026年10月13日時点の東証一覧では特別注意銘柄として「改善中」である。監査意見の変化と、内部管理体制の改善審査の完了は別だと分かる。[5][11]
ハイアスの事例は旧「特設注意市場銘柄」制度下の判断。現在の特別注意銘柄制度とは審査の期限・条件が異なるため、当時の猶予期間をニデックへそのまま当てはめることはできない。
改善できず上場廃止となった事例もある
別の比較対象として、フード・プラネットは内部管理体制の改善が進まず、改善を実行する態勢もないと判断され、2017年5月29日に上場廃止となった。これは「年度監査の2期連続不表明」の例としてではなく、内部管理体制の改善失敗で上場廃止に至った例として挙げる。[12]
過去事例から言えるのは、不表明の対象年度の数だけで結果は決まらず、その原因、財務報告の回復、内部管理体制の改善状況が問われるということだ。
今回のニデックは何を解消する必要があるか
2026年3月期の連結監査報告書は、不表明の根拠として「コーポレート・ガバナンス」「資産の減損」「比較情報」を挙げている。[2]
ガバナンスの論点では、不適切な会計処理等に関与した、又は監査人へ虚偽説明を行った役職員の一部が、財務報告で責任ある立場に残っていた。人事的是正措置は一部未完了で、後任者が責任を引き継いで職責を適切に果たしていることも、十分に確認されていなかった。監査人は、修正が網羅的か、未発見の誤りが残るかについて、十分な証拠を得られなかったとしている。[2]
人を処分したという発表だけで、監査の問題が自動的に解消するわけではない。報告書の指摘を踏まえれば、新たな担当者による再確認と、信頼できる証拠に裏付けられた財務報告が必要になる。
減損の金額・計上時期や修正再表示された比較情報にも、監査証拠の問題が記されている。今回を「減損額が検証できなかっただけ」と説明すると、財務報告全体の信頼性に及ぶ指摘を落としてしまう。[2]
今後はどのような展開が考えられるか
制度と今回の監査報告書を踏まえると、次の3つが考えられる。いずれも現時点の見通しであり、確率を示せるものではない。
- 財務報告と内部管理体制の改善が認められ、上場を維持する。監査証拠の問題が解消し、東証の審査で整備・運用が認められる展開。収益性等によっては指定が継続する場合もある。
- 体制の整備は認められるが、運用確認が足りず指定が継続する。適切な運用の見込みがあることが条件となり、再審査へ進む。
- 改善が不十分と判断され、上場廃止となる。内部管理体制を適切に整備したと認められない、又は運用の見込みがない場合などの展開。
「監査意見が変われば必ず上場維持」「意見不表明が残れば2期という数だけで必ず廃止」と、どちらにも断定できない。監査意見の理由が解消したかと、東証が会社の内部管理体制をどう評価するかを合わせて確認する必要がある。
今後注目したいのは、人事的是正措置と引継ぎの実態、修正漏れを検証する証拠、監査報告書の更新、そして内部管理体制確認書と東証の判断だ。
万次郎の見方
2期連続の意見不表明を、単なる回数の問題として読むべきではない。ニデックで問われているのは、決算を修正した後も、その決算を支える人と情報の信頼性を監査人が確認できていないことだ。
謝罪、社長交代、処分、巨額損失の計上。それぞれが必要な対応でも、それだけで監査意見を形成する証拠にはならない。上場維持への道があるかを見極めるには、「改善します」という説明の先に、改善が実際に機能している証拠があるかを見る必要がある。
現段階で上場廃止を決め付けることはできない。一方、「2期連続でも自動的には廃止されない」という制度説明を、安心材料に読み替えることもできない。
2026年10月20日追記|役員責任調査報告書251頁を公表
ニデックは2026年10月20日、マスキングを終えた役員責任調査委員会の調査報告書を公表した。会社は、損害賠償請求その他の法的措置を講じるか検討中であり、決定後に速やかに開示するとしている。
- 調査対象:2020年度から2025年度第1四半期まで
- FY22構造改革:約1,600億円の「負の遺産」申請に対し、連結営業利益を確保できる範囲を処理枠としたため、減損・引当を要する複数案件が先送りされたと認定
- 資産健全化プロジェクト:社外専門家を入れた調査や取締役会報告の提案は受け入れられず、プロジェクト自体も取締役会へ報告されなかったと認定
- 責任認定:取締役等8名と元執行役員1名について、会社法または民法等に基づく責任を認定。個別の損害額・請求額は未確定
会計士が気になった点
今回の新情報は責任者の人数より、会計判断を業績目標に従属させる意思決定構造にある。報告書は、減損・引当を利益目標の達成度に応じて処理する仕組みと、監査法人を会社側のゲートキーパーと捉える誤った認識を厳しく指摘した。再発防止では、会計判断が目標利益から独立していること、取締役会・監査委員会へ重要案件が適時報告されること、その運用証拠が残ることが重要になる。
なお、過年度の訂正報告書が未提出で過去の分配可能額が確定していないため、過大配当等に関する責任は今回の調査対象外とされた。会社は訂正後に訴訟等を検討する方針であり、請求額・提訴時期は引き続き未確定である。
ニデック「役員責任調査委員会の調査報告書公表について」(2026年10月20日)
参照資料
- ニデック 2025年3月期有価証券報告書
- ニデック 2026年3月期有価証券報告書 244~245頁の連結監査報告書等
- 日本公認会計士協会 監査基準報告書705 第6~9項
- 日本公認会計士協会 監査意見の解説
- JPX 不適正意見・意見不表明等一覧 2026年
- JPX 特別注意銘柄への指定と指定後の流れ
- JPX ハイアス・アンド・カンパニー 監理銘柄指定 2020年9月30日
- JPX ハイアス・アンド・カンパニー 上場維持の判断等 2020年11月26日
- JPX ハイアス・アンド・カンパニー 指定解除 2022年7月27日
- JPX 不適正意見・意見不表明等一覧 2025年
- JPX 特別注意銘柄一覧
- JPX フード・プラネット 上場廃止決定 2017年4月28日
- JPX ニデック 特別注意銘柄指定 2025年10月27日
本稿は2026年10月20日時点の資料に基づく。新たな開示・審査結果により状況が変わる可能性がある。

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